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2009年11月11日

恋するレストランソムリエ。

第四話

どう言えば咲子が納得するか、しばらくの間僕は黙って考えていたが名案は浮かばなかった。
咲子は、空になった僕のグラスにフェラーリをなみなみと注ぎ足し、次に自分のグラスを空にするとそこにも注ぎ足した。
それでフェラーリは空っぽになった。
咲子は空っぽになった瓶を高々と掲げてウェイターを呼び、「もう一本!」と言った。
「何本飲む気なの?」
「は?」
「何本飲む気なの?」
「100本」
咲子の酒乱は店でも有名な話だが今夜はその伝説をさらに拡張するようだ。
僕はそっと席を立とうとした。酔い潰れて眠ったら、店の人が何とかしてくれるだろうと淡い期待を抱いた。
「どこ行くの?」
鋭い声。
「トイレ」
「嘘つくな!」
店中に響き渡るような大きな声。
「咲子、な、いい加減にしようよ。失恋して辛いのはわかるけどさ、これじゃ解決しないよ」
「辛くないもん、咲子。お酒飲みたいだけだもん。高野くんはなーんもわかってない」
僕は諦めて椅子に座り直し、グラスの中の液体を一気に飲み干した。
「OK。じゃこうしよう。今夜は付き合うよ、でも、あと1本飲んだらタクシーで帰る。な?それならどう?」
咲子は既に座ったその目線を僕の方へ向ける。睨んでいるとも取れるし、見つめているようにも見える。
「そうやってぇ、丸め込むつもりでしょ?大人ぶっちゃってさぁ。でも、いい!許してあげる、これ、飲んだら、帰ろ。高野くんち」
そういうとウェイターが持って来た2本目のフェラーリをドボドボとグラスに注いで、ぐいぐい飲んだ。
僕はちらっとウェイターを見たが、彼は少し会釈すると元の持ち場へと帰って行った。

僕は必死で2本目のフェラーリを飲み、何とか一分でも早く帰宅しようとした。咲子はそれを嘲笑うようにゆっくりゆっくりとグラスに口をつけ、酔いが回るにつれて饒舌に分かれた彼を罵った。
周りのテーブルはチラホラとしか埋まっていなかったがそれでもくすくすと笑う声が聞こえてきた。

それから小一時間ほどで僕らはようやくボトルを空っぽにした。
咲子は勢いよく立ち上がると勘定を済ませて店を出た。
通りに出るとタクシーを止め、運転手に「高野君ちに」とだけ言うと一瞬のうちに深い眠りに落ちた。
僕はやれやれと声に出していって、座席に身を預けた。運転手が鏡越しに僕をちらりと見て「どこまで行きますか?」と尋ねた。
僕は「高野君ち」といいたいのを我慢して、「井の頭線の浜田山まで」と言って、目を閉じた。
posted by connie at 14:42| Comment(0) | ノベル | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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